メキシコ国立自治大学の中央図書館一階は、
賑やかなことがしばしばあった。
しかも、なんだか朗らかな賑やかさなのだ。
背の高い大きなガラス窓に囲まれた閲覧・自習スペースでは、
勉強している人、昼寝している人の他に、
カップルが楽しげに小声で話してくっついたり、
グループで何かの相談をしていたり。
その朝座った席の目の前にいたおじさんは、
集中できなくなると 音読したくなる性質らしかった。
低くていい声だった。
そのうちもっと集中力が切れたらしく、ビブラートのきいた鼻歌が始まった。
さすがにちょっと困って視線を送ったら黙ってくれた。
昼を食べて再び図書館に戻り、うつらうつらしていると
どこからか女性の歌声が…
すっかり目が覚めて声の出所を探す。
二つ向こうの机に陣取り、ヘッドホンをつけて歌うおばさんを発見。
今度の歌は鼻歌なんてものではなく、歌詞もしっかりついている。
私が彼女から目を離せないでいると、私の隣に座っていたおばさんが
「あの人、ヘッドホンしてるから気づかないのね。」
二人で目配せをし、苦笑。
しばらくすると、気分が盛り上がったのか
次第にボリュームが上がってきた。
新たに歌声ゾーンにやってきた男の人も、
座ってしまってから歌声おばさんに気づいて苦笑する。
あまりに気持ち良さそうだったので誰も何も言えず、
暖かい昼下がりの図書館は、
何人かの困った顔と、おばさんの朗々とした歌声と
ふふふ、くくく、という笑いでいっぱいになった。