すでに最終日も近く、老若男女(ベビーカーで寝ている赤ちゃんも)で
混み合った アンリ・カルティエ・ブレッソンの写真展。
数ある写真の中でも、ジャコメッティの肖像写真シリーズが一番気に入った。
・展示準備をする途中、
線の細いあの独特の人物像の横を、前傾姿勢で歩き回るジャコメッティ。
作品が作者にのりうつってしまったかのような傾きで、
彫刻家が自分の作品とすれ違う直前の瞬間。
・ひびだらけの木製の扉の前で、くしゃくしゃの新聞を小脇に抱えた
しわだらけの顔のジャコメッティ。
ジャコメッティの彫刻の表面の質感そのものに見える。
・雨の中、パリの横断歩道をわびしく渡るジャコメッティ。
傘は持っておらず、コートの襟を頭の上にひっぱりあげて雨をしのいでいる。
コートの左肩、襟首(かがめた頭)、右肩がつくる三角形と
二人の子供が手を取りあって渡る印の横断歩道の三角看板が
呼び合っている。
出口付近、字幕もつけず淡々と流されていたフィルムで、
カルティエ・ブレッソンでも
「決定的瞬間」を捉えるためには何枚も何枚も連続して撮り、
そこから唯一の瞬間のコマを選んでいたことを知った。
決定的瞬間を一枚でパチリと捕らえているような錯覚を覚えていたが、
生まれる「辺り」をいくつも撮ることで、
「その瞬間」を逃さず捕らえていたのだった。
雨の横断歩道を渡るしわしわジャコメッティの写真のネガもうつっていて、
看板が切れている数枚は選ばれず
三角看板がきれいに写っているコマ1つに赤い丸がつけられていた。