2007年10月31日水曜日

アヴィニョンの片隅


        

サンピエール教会を訪れる観光客の多くが、
壮麗なファサードをてっぺんまでカメラに収めようと、
デジカメのモニターを見ながら教会からどんどん離れ、
うーん、まだ全部入らないな、なんて言っているうちに
後ろの建物ぎりぎりまで下がっていく。
わたしもそんな中の一人だった。

ふと振り返ると、後ろの建物の窓辺には
地球儀が遠慮がちに外の世界をのぞいていた




2007年10月30日火曜日

フランス(5) アヴィニョンにて

ようやくアヴィニョンに着き、法王庁宮殿に登った。Papesを「教皇」、「法王」という日本語に置き換えて頭に思い浮かべると高校時代、世界史を習った教室の情景を思い出した。こうして実際にアヴィニョンを歩き、長い歴史を経て今に至る石造りの建物を見ていると、歴史は単に紙の上に書かれたことがらではなくて生身の人間が実際に生きたものなんだなあ、という当たり前のことなんだか不思議に感じられる。






美しい絵画や彫像と、おそろしげなレリーフと、果たしてどちらが宗教的メッセージを伝えるのにより効果的だったのだろうか。








幽閉された天使。立派な羽があり、頭上には空もあるのに、囚われの身のままじっとしている。まあ、石なのだけど。










観光ガイドつきのよそのグループの足並みにならい、展望台へ上る。上から見たサン・ベネゼ橋。これが歌にもなっている「アヴィニョンの橋」。その歌、日本語版もあるんだよ、と歌ってみせると、ソレーヌは目を丸くしていた。

橋なのに途中で切れているのは何故なのだろう。





ローヌ川をはさんだ対岸から見たサン・ベネゼ橋。
アヴィニョンの橋の見えるこんな場所にカラフルなカヌーがたくさんいて、親子連れや、小学生くらいのきょうだいが練習している。もう河口に近いこのあたりは、川幅も広く流れが穏やかでこどもの練習にちょうどいいのか。

流れが緩やかそうだとは言え水深はどのくらいあるんだろう。




法王庁宮殿の前には、聳え立つ歴史を背景に、
スケボーで順番に跳ぶ男の子たち。








宮殿脇の庭には、イヤホンで音楽を聴きながらジャグリングを練習する若者。腕の動きがとてもなめらかでスローモーションを見ているような気がした。重力を操れるか、その空間だけ空気ではなく水で満ちているかのようでもあった。

アイスクリーム売り屋台のおじさんもアイスを買いに来たお客さんと一緒に見とれていた。






街には、小さなこどもを連れた家族があふれている。親子の服装の色づかいが、わざとらしくなく自然に統一感を持たせてある。やさしいピンク色の女の子は乳母車を降り、えい、と押しては追いついて、また、えい、と押して勇ましく歩いていた。

後ろからのんびり見守るピンク色のお母さん。頼もしくあたたかい。

2007年10月23日火曜日

cosmos⇔caos (武蔵野の秋)


コスモスの蜂蜜は、どんな味がするんだろうか。
たくさんの蜜蜂がブンブン飛び回っては蜜を集めていた。

女王蜂も花を愛でに出てくることがあるんだろうか?
ないとすれば、花は蜜だけじゃないことを知っている働き蜂も悪くない。



コスモスはメキシコ原産らしい。
それなのにメキシコでは一度も見つけられなかった。
向こうでも秋に咲くのだろうか。


コスモス:秩序。
転じて、それ自身のうちに秩序と調和とをもつ
宇宙または世界の意。⇔カオス
(『広辞苑』より)

2007年10月21日日曜日

フランス(4)南西への途上 クレストにて

アルヴァールを出て、
モンペリエへの第二ルートの黄色い表示に従って下道を走り続ける。
道路脇の景色が次第にかわり、胡桃林がだんだん少なくなっていく。
そして広がった光景は、トウモロコシ畑。あれ?と不思議に思う。
四年前にフランス南東部を車で通ったときは
これほど多くのトウモロコシ畑を見た覚えはない。
バイオ燃料の波はここにも来ているのか、と目を丸くする。

城砦のある町クレストで、ドローヌ川の岸辺に座ってお昼ごはん。途中の大型スーパーで買ったバゲットに、babybellのエメンタールチーズ、サラミ、田舎風パテ、カモのパテ、タブレ(クスクスのサラダ)、そして飲み物は水。














ソレーヌが、「これ美味しいの!」と言って買い物カゴに加えた、りんごとマルメロのピュレ。ほんとうは離乳食で「四ヶ月から」と書いてある。デザートに一人一瓶平らげる。マルメロは、梨のようなザラザラした舌触りがあり、味も香りも舌触りも全部含めて美味しかった。美食の国では、赤ちゃんのときからこんなものを……。



クレストで会った人たちは皆とても感じがよくて、私たちの右隣でブロックに腰掛けて運転免許の試験のための本を見ていた若い女性も、左の方でピクニックをしていた家族も、立ち去るときに私たち二人に「bon appétit!」と声をかけてくれた。川のある町は風通しがよくて気持ちがいい。

2007年10月17日水曜日

フランス(3)グルノーブル、アルヴァールにて


2002年夏から一年間暮らしていた懐かしい町グルノーブル。中心街の広場からイゼール川の方へ一本入ったところにある公園は、いつものどかで大好きな場所だった。






公園沿いには、カフェ、サラダレストラン、手作りアイスクリーム屋さん、幼稚園、こどもの本の図書館、そしてこの町に生まれたスタンダールの記念館もある。以前訪れたその記念館、今回はいくら探しても何故か見つからなかった。





2003年秋から一年京都に留学していたグレッグとソレーヌ、公園に面したカフェにて
滞在中、フランスはラグビーのW杯で盛り上がっていた。この日の夜はフランス/ アイルランド戦。「試合を見るの?
」とグレッグに尋ねると、「今夜はアメフトの練習があるから、間に合わないなあ」




町はぐるりとアルプスの山々に囲まれている。どちらを向いても山、という感覚を久しぶりに思い出す。








ソレーヌのお父さんの家は、グルノーブルの町から車で40分ほど、アルヴァールという山間の町にある。日本に遊びに来た折に、写真を撮るときはピース、というのを見て帰ったようだった。冗談を言っては豪快に笑う愉快なお父さん。





住みながらリフォームを進めているおうち。はしご階段の昇り降りは、特に朝の起き抜けには要注意。タイル張り職人のお父さんが仕事の合間を見つけて自宅の工事に取り掛かり、壁の素材や色を決めること、壁塗りからドアの取り付け、なんでも自分でやっている。私が泊めてもらった部屋の床は、
「息子がタイルを張ったんだよ。私は娘のことも息子のことも、とても誇りに思ってるんだ」








甘い白ワイン・ミュスカにカシスリキュールを入れ、キールで乾杯。奥にちらりと見えるテレビでは、サルコジ大統領が話をしている。食卓の話題に政治が普通に登場するのもフランスらしい。

2007年10月12日金曜日

フランス(2) アヌシー、タロワにて

リヨンからシャンベリーへの電車。
携帯電話はマナーモードに設定を、と言葉にする代わりに…

シャンベリーで、先月まで東京でインターンをしていたソレーヌと、もう一人のソレーヌと合流。
 ソレーヌの車でアヌシーへ。



快晴。空も山も湖もまぶしい。
貸しボートや個人持ちのボートがたくさん泊められている。遊覧船はいかが、との呼び声もちらほら。
遠くから見ると「水色」に見える水は、近づけば近づくほど透明になる。水鳥の足までもがくっきり見える。


さて、この水鳥はそろそろお昼どき。
ひょっ、と逆立ちして水底に頭をつっこんでは、湖をすいすい泳ぐ小魚をつかまえて食べていた。
一部始終がすっかり見える。





鳥たちはお昼ごはん、
人間はもう一遊び。









この運河を越えた向こうには、
レストランやたくさんのお店が立ち並び、
観光客や、老後をのんびり過ごすご夫婦たちで賑わっている。



私たちはパニーニを買って湖に戻り、
芝生のベンチで昼食を済ませ、


ソレーヌが小さいころに行ったことがあり、きれいだったという湖の向こう側の村、タロワへ。
山間の村。








山側を見上げると、高い空に、カラフルなパラグライダーがちらばって舞っている。(画像をクリックすると、拡大)
車を停め、しばらく村を散策。
あ、と言ってソレーヌが道に落ちたヘーゼルナッツを拾い始め、ソレーヌも拾い始め、私もそれに倣う。ソレーヌのポケットは、冬支度のリスのほっぺたのように膨らんだ。


塀から顔をのぞかせた木の実も、
なんとも洒落た色合い。
フランス人の色彩感覚が素敵なのは、
植物や土、空、自然の色に由来するところも
いくらかあるんじゃないだろうか。



湖のこちら側は、とても静か。
タロワに住む人たちのボートがいくつか泊めてあり、
あとは、強い光と、そして静けさ。















2007年10月11日木曜日

フランス(1) リヨンにて


グルノーブルの学生寮の隣人
クレマンスと四年ぶりの再会。
彼女は相変わらず猫好きで、

リヨンでも猫を飼っていた。
クレマンスが仕事に出かけた後、
朝食をとりながら地図を見ていると

視線の先に猫がどっしり座った。


近年導入されたらしい、
レンタサイクルのシステム。
あちこちにサイクルスタンドがあり、
白地に鮮やかな赤の自転車が
町中を軽快に走っている。




さすが、フランス。 どの店のショーウィンドウを見ても美しい。
きれいな店が立ち並ぶ道に、 妊婦服専門の洒落た服のお店があった。 パリの公園で、 美しい真っ赤なコートが汚れるのもかまわず子どもと一緒に砂場にしゃがんでいたお母さんを思い出す。



フルヴィエールの丘に登る。
「~坂」という名前を頼りに、
上り坂の近道を探して進んだ。
急勾配の途中で、
伊勢から来たのか、かたつむりに出会う。




町中を見渡せる、丘の頂上にやっと到着。
お母さんに抱えてもらって望遠鏡をのぞく空色の男の子。
視線の先には…






眼下に広がる、リヨンの町。
ソーヌ、ローヌ、二つの川が流れている。

ソーヌ川はLa Saône、ローヌ川はLe Rhône。
町に降りてから見た石碑には、二つの川が女性と男性の姿で描かれていた。




ノートルダム・ド・フルヴィエールバジリカ大聖堂。
ひんやりとした大聖堂の壁面を飾る、
ジャンヌダルクやレパントの海戦など
歴史的なモチーフのモザイク壁画を眺め、
地下礼拝堂に続く階段を降りると、
ふわっと暖かさを感じた。
ロウソクの暖かさだった。














聖母の加護に感謝をあらわした石版。この写真のあたりには、第一次大戦中の年代が多く見られた。





丘を降りると、
旧市街の中心にある
サン・ジャン教会の入り口から、
四時を告げる からくり時計の音楽が聞こえてきた。
クレマンスのお勧めだったのに、
時計の下にたどり着くまでに音楽は終わり、
人形も中に入ってしまった。
時計に映るステンドグラスの光が美しく、 しばし見とれる。






1371年の日付の文書にも、
すでにこの時計のことが
言及されているらしい。
宗教戦争や、フランス革命で損壊を受け、
修復を重ねて今に至る。
時を刻み続けるこの時計には、
数々の歴史も刻まれている。









ローヌ川の川岸では
最近工事が行われ、
もとあった駐車場を壊して散歩道を整備し、
ゆったりしたデッキチェア、
子ども用の遊具などを設置したとのこと。
効率一辺倒の流れに乗らない、
心の余裕が粋。
夕方をのんびり過ごす人たち。


川岸の超高速すべり台。
のんびりムードの中、ここだけスピード感があった。

初めは速すぎて娘を受け止め損ねたお父さん、
二度目からは用心して、娘をしっかりキャッチ。
スピードとスリルがあっても、
それを楽しんでいる親子の姿は、やはりのどか。



もう8時も近いのに、まだ明るい。
月が涼しい顔で日没を待っていた。