2009年2月27日金曜日

気前のいいパン屋(メキシコ書きそびれ記:2)

鏡をつかった作品をつくる造形美術作家のカヨコさんと
チャイを飲んだ、ある日の夕方。

二人とも200ペソ札しか持っておらず、まずは私が支払った。
カヨコさんは、パンでも買ってお金をくずし、自分の分を払うよと言ってくれた。

その言葉を聞いてわたしは前にも同じようなことがあったことを思い出し、
そのときのおかしな顛末を、カヨコさんに話した。

まとめて払ったもらった分を返そうと、お金をくずすためにパン屋に行って、
1ペソほどのパンを買って200ペソ札を出したら
店にはおつりがないという。

どうなるかと思えば 「いいよ、今日の分は」。
200ペソ札と、パンひとつを手に、パン屋を出た。

ははは、メキシコらしい、なんて言いながらパン屋につくと、
カヨコさんは「これと これと これ」パンをお盆に載せていく。

15ペソぐらいになっただろうか。

今日はアルバイトの女の子だけでなく、パン屋のご主人もレジにいる。
「こんばんは。」
「いらっしゃい。**ペソだよ。
 200ペソ札
「あれ、小銭ないの?」
「ないんです」
「今日はいいよ、持って行って」
…ほんとうに??

私たちは、200ペソ札と、三つのパンと共にパン屋を出た。

2009年2月25日水曜日

闘鶏 (メキシコ書きそびれ記:1)

12月のこと。

闘鶏を初めて見た。

ガレージの扉をくぐると、バサバサ、ガサガサ、人間と鶏の気配が満ちている。

敷地の左端には、強そうな鶏たちの入ったケージがずらりと並ぶ。
右側には、赤と緑で半分に分かれた円形の砂地ミニ闘技場。
家族連れがそれぞれの場所に陣取り、顔見知りが入ってくると一人一人挨拶をする。

長細い木製の闘鶏道具箱には、
鶏の左足につける鋭い鉤爪、それをくくる糸、鋏などがしまってある。

試合を前に、それぞれの陣営の男性が二人ずつ、
丁寧に丁寧に闘いの準備をする。儀式的な沈黙の時間。
鶏はその間中、じっとしずかに持たれている。

用意ができると、士気を高めるための鶏を近づけてはコココココと煽らせ、
怒った鶏を両手で抱えて
砂地の真ん中に描かれた小さな白い四角の中に寄り、
片膝をついてそっと置き、
レフェリーの合図に、手を離して後ろに下がる。

睨み合う二羽。
バサバサバサ!

一試合目は、あっけなく勝負がついた。
緑陣営の鶏の鉤爪が、一瞬で赤陣営の鶏の命を止めたのだ。

ぐったり横たわる一羽。
もう一羽の鶏は、動かなくなった相手をじっと見据えるが、それ以上の手出しはしない。
男が駆け寄り、嘴に息を吹きかけ、鶏の様子を見るが、もう終わり。


しばらくザワザワした後で、次の試合の準備が始まる。

次の試合は長引いた。

1ラウンドが終わるごとに、ボクサーを手当てするセコンドのように
男たちは鶏を丁寧に手当てする。
口に含んだ水で傷口を洗い、血を吸い出し、嘴に息を吹きかける。

再び四角に置かれた鶏は立ち上がり、羽ばたき、
闘い、睨み合い、羽ばたき、、、
一方の鶏が倒れ、ふくらみ、しぼみ、激しく息をする。

どの鶏も、相手が倒れている間は、手出しをしない。
起き上がり、戦う体制に入ったのを見ると、再び攻撃を始める。
自然界にも暗黙のルールがあるのか。

客席は、特別に叫ぶでもなく、手を叩くでもなく、
じっとなりゆきを見守っている。

次の試合のための鶏をまるく抱えて見ている人もいる。
こどもたちも、鶏の扱いを心得ていて、
強い鶏たちを、ぬいぐるみでも持つかのように抱えている。


入念な鉤爪の準備、鶏を砂地に置いて試合が始まり、
1ラウンド、2ラウンド、3ラウンド、
そのどこかで、片方の鶏が倒れて動かなくなる。

しばらくしてまた、鉤爪の準備が始まり……

敗れた鶏たちのからだは、敷地内のごみかごに捨てられていた。

2009年2月10日火曜日

小さな村の Sor Juana

日曜日、Sor Juana Inés de la Cruzの生家に連れて行ってもらった。

17世紀のメキシコが誇る才媛の生まれた場所は、
メキシコ市から車で1時間半ほどのところにある
Nepantlaという小さな小さな村。

こう言っては失礼かもしれないが、見るべきものはただひとつ、
立派な門構えの敷地につくられたSor Juana記念館。

その中には、彼女が生まれた家の壁の名残が大事に保存されている。

小さい。

普通に歩く程度の歩幅で、縦に7、8歩、横に10歩強。
ここに家族全員が暮らしていたのだろうか。

それにしても、小さい。

そして、今のネパントラも小さいけれど
きっと彼女が生まれた当時はもっともっと小さな村だったに違いない。

小さな村の小さな家で生まれたフアナちゃんが、
同時代のメキシコはもとより、当時の宗主国スペインでも広く読まれ、
そして現在に至るまで読み継がれる

ソル・フアナ・イネス・デ・ラ・クルスになるとは。

2009年2月6日金曜日

犬のウィンク

ゴールデン・レトリバーのミッツィーがダイエットに成功している。

家主のセシリアたちがカナダに移住するというので
飛行機のペット用重量制限「ケージを入れて45kg」内に収まるべく
数ヶ月前から、涙ぐましい努力が続いている。

ミッツィーは、器量よしだが
散歩に出れば「かわいいね」と「こりゃ太っちょだね」の両方の声がかかるくらい
誰が見ても、重量オーバーだった。

それが今や、ウェストの辺りがすっかり変身、
「ぽってり」ではなく「すっきり」という形容が似合うようになった。

それでも食欲が減ったわけではなく、相変わらず
料理のにおいを嗅ぎつけるとタッタッタと台所にやってきて、
これでもかというくらい可愛い顔をして、食べ物をねだられる。

今朝は、小麦粉のトルティージャにチーズをはさんで温めたのを食べていたら
みっちゃんがふかふか登場、
台所の木製ベンチに顔を載せて首をかしげたと思ったら、片目をぱちり。