12月のこと。
闘鶏を初めて見た。
ガレージの扉をくぐると、バサバサ、ガサガサ、人間と鶏の気配が満ちている。
敷地の左端には、強そうな鶏たちの入ったケージがずらりと並ぶ。
右側には、赤と緑で半分に分かれた円形の砂地ミニ闘技場。
家族連れがそれぞれの場所に陣取り、顔見知りが入ってくると一人一人挨拶をする。
長細い木製の闘鶏道具箱には、
鶏の左足につける鋭い鉤爪、それをくくる糸、鋏などがしまってある。
試合を前に、それぞれの陣営の男性が二人ずつ、
丁寧に丁寧に闘いの準備をする。儀式的な沈黙の時間。
鶏はその間中、じっとしずかに持たれている。
用意ができると、士気を高めるための鶏を近づけてはコココココと煽らせ、
怒った鶏を両手で抱えて
砂地の真ん中に描かれた小さな白い四角の中に寄り、
片膝をついてそっと置き、
レフェリーの合図に、手を離して後ろに下がる。
睨み合う二羽。
バサバサバサ!
一試合目は、あっけなく勝負がついた。
緑陣営の鶏の鉤爪が、一瞬で赤陣営の鶏の命を止めたのだ。
ぐったり横たわる一羽。
もう一羽の鶏は、動かなくなった相手をじっと見据えるが、それ以上の手出しはしない。
男が駆け寄り、嘴に息を吹きかけ、鶏の様子を見るが、もう終わり。
しばらくザワザワした後で、次の試合の準備が始まる。
次の試合は長引いた。
1ラウンドが終わるごとに、ボクサーを手当てするセコンドのように
男たちは鶏を丁寧に手当てする。
口に含んだ水で傷口を洗い、血を吸い出し、嘴に息を吹きかける。
再び四角に置かれた鶏は立ち上がり、羽ばたき、
闘い、睨み合い、羽ばたき、、、
一方の鶏が倒れ、ふくらみ、しぼみ、激しく息をする。
どの鶏も、相手が倒れている間は、手出しをしない。
起き上がり、戦う体制に入ったのを見ると、再び攻撃を始める。
自然界にも暗黙のルールがあるのか。
客席は、特別に叫ぶでもなく、手を叩くでもなく、
じっとなりゆきを見守っている。
次の試合のための鶏をまるく抱えて見ている人もいる。
こどもたちも、鶏の扱いを心得ていて、
強い鶏たちを、ぬいぐるみでも持つかのように抱えている。
入念な鉤爪の準備、鶏を砂地に置いて試合が始まり、
1ラウンド、2ラウンド、3ラウンド、
そのどこかで、片方の鶏が倒れて動かなくなる。
しばらくしてまた、鉤爪の準備が始まり……
敗れた鶏たちのからだは、敷地内のごみかごに捨てられていた。