ある夜、チャプルテペック公園を散歩した。
普段、夕方は4時半に閉まってしまうのだが、
その頃は毎週水曜夜に定員40人の夜散歩ツアーをやっていると聞き、
情報誌の記事を切り抜いて幸恵さんとヨン君を誘った。
サン・アンヘルで待ち合わせ、チャプルテペック直通のバスに乗る。
が、これが失敗で、すっかり夕方の渋滞に巻き込まれ、
ようやく着いたと思ったら、開いている門がなかなか見つからず
集合時刻にわずかに間に合わなかった。
門衛のおじさんに「夜の散歩に来たんですけど」と言うと
「もう定刻過ぎてるから入れないよ。」
いつもはみんな時間にルーズなのに…がっかり。
ヨン君が「ぼくたち、明日国に帰るんです、今夜が最後のチャンスだったのに…」。
彼の滞在はあと2年、私たちはあと半年残っていたのだが気にしない。
ほかにも間に合わなかった人たちが到着し、
それぞれがっかりし、ぐずぐず留まった後に立ち去って行った。
諦めきれない私たちは、まだそこにいて、おじさんとあれこれ話を続けた。
ヨン君はいつの間にか日本人ということになっている。
メヒコには親日家が多い。
ふと、おじさんの気が変わり、
「はるばる来たんだから」と、そっと中に入れてくれた。
「散歩し終わったら、門が閉まる前にちゃんと出るんだよ。」
ぞろぞろ連れ立って歩く見学客の後姿を横目に、
人気のない夜の公園を3人で好きに歩き回る。
おなかが空けば持っていた菓子パンを分け、
「私、かわいい?」という韓国語のフレーズを教わって
そんなフレーズを普通に使うことに驚いたりして、
日韓文化の差にワイワイ盛り上がりながら、
巨大な公園の中の
湖、英雄少年たちのモニュメント、チャプルテペック城の3箇所を回った。
だらだら坂を上って城の入り口まで着くと
「一体どこから入ったんだ」と驚かれ、 適当にお茶を濁す。
「公園にいたら、いつの間にか人がいなくなって、気づいたら出られなくって」
怪しみながらも、守衛さんは中世スペイン展の夜間観覧イベントのチラシをくれた。
「今日は入れてあげられないけど、今度は予約して、これを見に来るといいよ。」
入り口まで戻ると、さっきの門衛のおじさんはもう交代していて、
事情を知らない新しい門衛さんの横を、
我々アジア人3人、何事もなかったかのように外へ出た。