2007年8月8日水曜日

モエレ沼公園 ~風の巣、海のへそ~

モエレ沼公園は風の巣だった。

滑走路みたいな斜面を駆け上がると、頂上にはびうびゆう風が吹き抜けていた。

前を走っていたおじいさんは巧く飛び立ったのか、姿が見えない。
メキシコのテオティワカンを思い出すピラミッドの階段を上ると

その頂上はまるで風の巣。

試しに広げた若草色のショールは
わっと風に膨らんでパラシュートになって 飛んで行ってしまいそうで、 こわいくらいだった。
たっぷり二か月分は風を浴びる。

風に疲れ、
ガラスのピラミッドに入って

陽が沈むのを眺めていると、
林の方へ、二人、また二人と、
人が吸い込まれて消えていく。

何があるんだろうねえ、と言いながら風の強い外に出て行くと
噴水が見えた。

ただの噴水ではない。


轟音をたてながら渦を巻いて
大量の水が噴出している。
水があふれてくると、あふれ出した水は周りのブロックに砕け、
中心の渦の動きにつられて、しだいに引く波寄せる波が生まれる。


目をつぶるとゴー ザーン ザーンと、砕ける海の波。
海のへそには、きっとこんな渦があるに違いない、

そう思えてくる。

海ができあがると、
急に渦の噴出しが止まった。

とっぷり暮れた夜のモエレ沼に広がったのは静寂ではなく
寄せては返す波の音、

そしてモエレ沼からの蛙の合唱。
びゅうびゅう風を受けながら耳を澄ましていると

水が引き始め、
小さな噴水、

霧の噴水へと移りかわり、
海が引いていった。

空には細くて大きな三日月、大げさに振り向くと、
三脚を立てたカメラのおじさんが夜空にカメラを向けた。
しめしめ。


見とれていた海が終わると
急に寒さが身にしみて
もうじっとしてはいられず
冷え切ってゴワゴワの腿を大きく動かしながらバス停まで走った。