2007年8月17日金曜日

白川郷 ~2006年8月の旅日記より~

世界遺産に登録されている飛騨の白川郷へ行った。
多量の降雪に合わせた急傾斜の屋根で、
養蚕のための空間を大きくとるところにも
特徴のある「合掌造り」の集落。


夕刻に合掌造りの民宿に着くと
開放的な縁側にある二部屋にあかりが
灯り
泊り客の家族団欒の姿が
目に飛び込んでくる。
ぎしぎしと木の床を踏んで手を洗いにいくと
水道の水がとても冷たい。


夕飯には山の幸がたっぷり。
茄子の柚子味噌和えがとても美味しく
友人が、そのお味噌はどこのものですかと尋ねると

「う ちでつくったんですよ」
と宿のおかみさん。
お酢の物の胡瓜は、「地這い胡瓜」という巨大な胡瓜で、
これも宿の畑でとれたもの。
「大体、自給自足でやっています」

冬は厳しいでしょうと誰かが言うと
それでも景色が一番美しいのは冬なので
深い雪にもくじけず訪れる観光客が
多いとのこと。

世界遺産に登録されて以来

村に来るお嫁さんの約半数が
もとは観光客として訪れた女性たちらしい。

「どうですか、あなたも来ない?」
と、朗らかなおかみさん。

折りしもテレビのニュースでは、
白川郷で執り行われた
東京出身のお嫁さんと村の男性の結婚式を報じていた。


夕食後、温泉に行った帰り道、
まだ9時半くらいなのに
村はすっかり寝静まった夜更けの雰囲気で、
下駄のカランコロンという音を立てるのも憚られるようだった。

宿も10時消灯だったけれど、

久々の再会に盛り上がった8人の大所帯の私たちは、
ひそひそと小声の小宴を結局1時過ぎまで続けた。

翌朝。
宿の裏手にある川は、深さで色調の違う様々な青色が美しい。
浅葱色というのは、あの川の深いところみたいな色を言うんだろう。

村のあちこちには、
まだ鮮やかな黄緑の稲穂が揺れている。
冬には降ろした雪を流す生命線となる水路には、
冷たく澄んだ水が
静かに勢いよく流れ、

ところどころには大小の鱒が泳いでいる。
民家の軒先には、桶や簾に小豆が干してある。


白川郷を一望できる展望台の説明文によれば、
ユネスコから評価されたのは集落の美しさだけではなく、
押し寄せる「近代化」や商業主義の波に負けず、

村の家屋の伝統的な姿と自然を守り抜いた
住人の努力に対するものでもある。


村の商店は個人経営で、
大きな看板と言えば
昔気質の看板職人の書いたような、

「電子レンジ」や「カラーテ レビ」の看板だけ。

冬の厳しい地方で、伝統的な暮らしを守るにためには苦労も多いだろう。

観光客というのは見物だけして帰っていく、
ある意味では無責任な存在でもある。

観光化の影響で、
風向きなどを考えない「合掌造り風」家屋が建てられた例もあると言う。

青の美しい川の傍らに

ペットボトルが捨てられているのも何本も目にした。
村の方々が「観光化」をどう感じているかは複雑だが、
正味一日にも満たない滞在ですら
自然や生活の美しさや
伝統的な暮らしの知恵に
何度も目を奪われた。


世界遺産というのは、
それを守ればいいだけではなく、
そこから何かに気づくことに意義の一つがあるのかもしれない。