メキシコシティは雨季真っ盛り、木々も草もとても瑞々しい。
春には紫の花で町を彩っていたハカランダも、
今では羊歯みたいな緑色の葉をフサフサとたくわえている。
先月までは辛うじて花がいくつか残っている木があったけれど、さすがにもう緑一色だ。
そう思っていたら、石畳にぽつんと紫が転がっていた。
思わず手にとって、上を見上げたけれど、目に入るのは緑色ばかり。
別の木の下をさがしたら、もうひとつ、ふたつ紫が落ちていた。
通りがかった夫婦と目が合ったので、
"todavía tienen flores"(ほら、まだ花がついていますよ)と手の中の紫を見せると、
"las últimas..." (もう最後のいくつかね)
二人は緑を見上げながら遠ざかって行った。