2009年12月20日日曜日
オラシオ・カステジャーノス・モヤ 『崩壊』
オラシオ・カステジャーノス・モヤ氏の小説『崩壊』
(寺尾隆吉訳、現代企画室、2009年)の出版記念会があった。
(12月16日、セルバンテス文化センターにて)
日本語版の帯は、この小説を次の三行で紹介している。
「軍事政権、ゲリラ、クーデター、内戦、隣国同士のサッカー戦争―
人びとを翻弄する中米現代史を背景に、
架空の名門一族が繰り広げる愛憎のドラマの行方は?」
この作品は実際に起きた出来事を下敷きにしている。
特に第二部にあたる書簡体の部分を書くにあたっては、
多くの歴史的資料に当たり、外交文書のアーカイブをも参照したという。
しかし、16日に作者も語っていたように、
中米の歴史を知らなければ読めないような本では決してない。
作品を読みながら直接的・間接的に出来事の姿が見えるように仕組まれている。
しかも、主人公は歴史的な出来事ではなく、そこに生きる(架空の)人物たち。
彼らの抱える問題 (とくに作者が挙げていたのは「家族」、「世代間の対立」など)は、
別の時代、異なる地域に暮らす私たちにとっても他人事ではないものだ。
『崩壊』は、読み手をぐいぐい引き込むという意味で「読みやすい」本だと言える。
当たり前だが、「**でもわかる」式の読みやすさとはまったく違う。
読み手の頭脳と感性を稼動させ、次のページを読まずにはいられなくさせるようなもの。
ジャーナリストとしても活躍する作者の、
好奇心、調査力、人間観察の鋭さ、批判精神、ユーモア、語りの巧みさ、
さまざまな持ち味が存分に発揮された一冊だ。
ちなみにスペイン語版と日本語版を並べてみたら、
左開きと右開きであるだけでなく、
木の根もどこか連続しているようで、きれいな対になった。