「春」
てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた。
という安西冬衛の詩があるが、雑誌『亞』に掲載された版では少し違う。
てふてふが一匹間宮海峡を渡つて行つた 軍艦北門ノ砲塔ニテ
韃靼海峡(タタール海峡)=間宮海峡。
サハリン(樺太)とユーラシア大陸の間の海峡。
呼び名が違うだけで、場所は同じだ。
最終的には、「韃靼海峡を渡つて行つた」に落ち着くのだが、
「間宮海峡」と「韃靼海峡」では、イメージの強烈さが違う。
地名の由来から、間宮林蔵と韃靼人のどちらが連想されるか、ということもあろうし
そもそも、音のインパクトがだいぶ違う。
「間宮海峡」の版では、
「軍艦北門ノ砲塔ニテ」という添え書きによって
蝶の軽く脆い飛翔と対照的な、砲弾の重々しく凶暴な軌跡が感じられるが、
最終版では、「てふてふ」と「韃靼」だけで、それがすでに含まれているようだ。
感嘆ついでに、蝶を、大航海時代へ移してみたくなった。
こういうのはどうだろう。
「16世紀」 安西冬衛に
てふてふが、一匹、また一匹と、マゼラン海峡を渡って行った。