野菜の無人販売所で、大根を買った。
野球選手のすねぐらい太くてずっしり。
もちろん葉つきで、紫のひもでまとめてある。
フランス人が香ばしいバゲットを買って帰るときのようにして、
白く冷たくずっしり重い大根を小脇に抱えてずんずん歩いていたら、
むこうから歩いてきたおばあさんが、笑顔で言った。
まあ、立派な大根ねえ。おいしいでしょうねえ。
いつかの夏、
暑さのひどい午後に、渋谷から乗った電車で
隣に座ったおばあさんに、声をかけられたことがあった。
暑いですねえ。やっぱり夏は、木綿よね。
そのとき私は、白い木綿のシャツブラウスを着ていた。
東京では「袖振り合う」人と会話が生まれることは少ないけれど、
時にはこういうこともある。
いい意味での「隙」を持っていたい。