ラジオの前から動けず、ただただ耳をすます、という経験をした。
フランスにいたときのある夜、眠りかけていたときにラジオから流れてきた音楽にぱっと目が覚め、
Maurice Vanderの名を書き取って以来のことだ。
台所に降りるつもりでいたそのとき、ラヴェルのボレロのヴォーカル版が流れてきたのだ。
一瞬ボロディンの「中央アジアの平原にて」かと思い、あれ?とわからなくなったけれど、
トン、トトト、トン、トトト、ト・ト・ トン、トトト、トン、トトト、ト・ト・
いやいや、やっぱりこれはあの曲。
メロディーだけでなくパーカッションの部分まで、
声だけであの精緻な厚みが組み立てられていく。
息を呑みながら最後まで聞き、誰が演奏しているのかと耳を澄ませたら
何も言わないままに次の曲が始まってしまった。
一体誰なんだろう。