2008年5月18日日曜日

お客さまは…

少し前のこと。
おなかの調子の悪かった私がおかゆを温めに一階に降りると、
台所がやけに賑やかで、とてつもなくいい香りがしてきた。

そこにいたのは、
家主のセシリアの従兄(南の町メリダ出身)・従妹(北の町チワワ出身)の二人。
たまたま同じときにメキシコシティに来ることになり、二泊三日、セシリア家に滞在するとのことだった。

夕飯を一緒にどうか、と誘ってくれたのだが
スポーツドリンクとビスケットだけの一日の直後だったので、お礼を言って断った。
けれど、何とも美味しそうな香りが、鼻をくすぐるどころか全身を揺さぶる。

プロなんですか、と尋ねると、従兄は本当に20年間カンクンのレストランでシェフをしていたとのこと。
ついに誘惑に負けて、端整なサラダを少し分けていただいたら、
両手の血管がじわりとするほど美味しかった。


夜も更けてお皿を洗いに台所に降りると、なんと二人は台所をピカピカに磨いていた。
そして、「明日は、君も食べられるようにおなかに優しい料理をつくっておくよ」。

翌日。
7時過ぎに大学から戻ってドアを開けると、有名料理屋の厨房のような香りが漂ってきた。
台所に行って二人に挨拶をし、今日は何をしていたのかと尋ねると、
昼にテオティワカンのピラミッドにのぼり、午後にはシティに戻って市場に買出しに行っていたとのこと。

セシリアとアンドレス(息子さん)が帰ってくるのを待ち、食卓に赴くと…
サラダと、御飯と、鶏肉の緑トマトソース(チリ抜き)。
「油もほとんど使わずに料理したから、きっと食べても大丈夫だよ」


美しい盛り付けに目は丸くなり、一口食べれば笑顔になる美味しさだった。
そして更に、会話上手、もてなし上手なのだ。

さて、翌日、二人の出発の日。
この日、私は家で作業していた。午前10時過ぎにお茶を入れに降りると、
すでに出かけているはずだった二人は、一階のダイニングと台所を掃除していた。

「午前中は出かけて、昼に空港に向かうつもりだったんだけど、
あまりせかせかするのもいやだったから、家にいることにしたの」
従姉の家は、塵ひとつないくらい完璧に手入れが行き届いているらしい。

いくら従兄姉とは言え、こんな来客があるものだろうか。
意外性。おばあさんと犬の詩(マザーグース)を思い出した。
あのいたずら犬がこの二人のようだったら、おばあさんも毎回肝を冷やさずに済んだだろう。