2007年12月12日水曜日

鮮烈な赤



アマトランのことを書いたら、
ベラクルス州に着くまでのおそろしい一晩を思い出した。
アウロラの通うダンス学校は、極寒の町トルーカにある。
ウアパンゴフェスティバルへ向かう一行は、
土曜の夜にトルーカに集合し、貸切バスでベラクルス州へと走った。

「メキシコ」というと寒さとは無縁のようなイメージがあるが、
真夜中にトルーカから山を越えて走るバスの車内は
「冷える」どころの騒ぎではなく、セーターに冬用の上着、
マフラー、手袋、
レッグウォーマー、
アウロラ家から貸してもらったひざ掛け、この全部で身を守っても
まだまだ寒くて、まずは足の感覚がなくなり、そのうちに痛みに襲われた。
その上、文字通りの「騒ぎ」にも悩まされた。
出発して間もなく、車内には「バンダ」のCDが
爆音で流れ始めたのだ。
管楽器が山ほど入った編成の、それはそれは賑やかな音楽。
ソプラノサックスの音があれほど恨めしく感じられたのは、
後にも先にもあの時のみ。
陽気な騒ぎに耳をふさぎ、冷たく痛む足をさすりながら、
腕時計を見れば午前二時。

いつの間に気を失ったのか、目覚めればベラクルス。
窓の外はすっかり日曜の朝だった。
軽やかな足取りで教会から戻る女性たちの白い服がまぶしく、
繭のようなひざ掛けをたたんでガクガクとバスを降りると、
そこは楽園のような暖かさだった。
うーーんと全身を伸ばし、朝食のため市場へ向かう途中の道で、
パッとまぶしい赤が目に飛び込んできた。