メトロは、メキシコシティであまり好きになれない場所。
乗り降りの時にみな我を忘れるし、運転が乱暴だし、駅や車両の手入れもよくない。
朝のメトロで、若い母親の膝に抱かれた1歳半くらいの女の子がぐずりだした。
あやしても効果はなく、困るお母さん。ふっと、斜め前から真っ赤なキャンディーが差し出された。
見知らぬおばさんから渡された棒つきのキャンディーを手に、女の子はキョトン。
しばらくの間、眉間にしわを寄せたまま、自分の手元とおばさんとお母さんを見比べていた。
降りる駅を人波越しに確かめてから、どうなったかなと見ると、女の子はニコニコしていた。
手元のキャンディーは包装が取られ、ハートの形が見えている。
おばさんは降りるとき "元気でね" と声をかけていき、女の子はその背中に小さな手を振っていた。