思いがけない歯のトラブルが起き、メキシコで初めて歯医者に行った。
幸恵さんのともだちのロクサナさんという、颯爽としてかっこいい女医さんのところ。
待合室の床は、メキシコではめずらし板張りで何だか落ち着く。
治療用の椅子に横たわると(懐かしいカーブ)
縦型ブラインドの透かしてある大きな窓からは、広く空が見える。
ロクサナさんが何か背後で準備していたときに、
飛行機がすーっと飛び立っていく姿が、かなり大きく見えた。
渡り鳥の群れの一羽目が飛び立つところを捉えた映像みたいに。近いんだ。
飛行機が、きれいに見えますね!と言ったら
そうなの、この空の眺めは私もとても気に入ってるの。
素晴らしい夕焼けが見えることもあってね、
そういうときは治療の手を止めて、患者さんに、空を見てって言うの。
あれを見逃したらもったいない。
それから、近くの大きな病院にヘリポートがあるんだけど
ヘリコプターが着くと、特に小さな子たちを診察しているときには
窓のそばに行って見てごらん、って言うのよ。
そう言いながら、ロクサナさんは手際よく治してくれた。
日本でお世話になっている歯科医の愛称は「ひげの歯医者さん」だった。
彼女は、空の歯医者さん、だろうか。