2007年12月6日木曜日

幸せって、

幸せって何だろう、なんて普段から考えるわけではないが、
幕末に日本を訪れたスイス人エメェ・アンベール(Aimé Humbert)の
『絵で見る幕末日本』(茂森唯士訳、講談社学術文庫)を読んでいて
出会った一節に、こういう捉え方はいいなと思った。

日本で見たさまざまな鳥の話がひとしきり続いたあたりからの引用。

「日本語でツルというこの鳥の名前に、神性をあらわすサマという敬称を付け加えて、オツルサマとも呼んでいる。鶴は、亀とともに、日本人にとっては、長寿と幸福のシンボルになっている。そして、かれらの意見によれば、幸福とは、心の平安と明るい理性を持つことである。入り江の岸辺に住んでいる日本人の大部分は、いま述べたばかりの心の平安と明るい理性を持っている。」

異文化から来た旅人が描いた幕末の「日本人」の姿は
異なる時代に生きる私にとっても新鮮な驚きの連続。





2007年12月5日水曜日

南へ

photo by Edgar. J.P.

いまはMadridに住んでいるメキシコのEdgarから、久しぶりに連絡があった。
「plaza Colónの近くを歩いていたら、こんな看板を見つけたんだ、
ちょうどカメラも持っていたから、撮った写真を送るよ。
本屋だといいなと思ったんだけど、よく見たらレストランだった」



photo by Edgar. J.P.


本屋だといいなと思うところが彼らしい。
オアハカのサポテカ族の王家の血を引くという彼のところは
一家そろって読書家で、皆それぞれにバリバリ仕事をしている。
2006年の年初め、

総勢5人を乗せ
て故郷のオアハカからメキシコシティまでを
真っ赤なトヨタで駆け抜け、一台にも抜かれなかったことや、
友だちと三人でValle de Bravoに行ったとき
一泊二日の旅なのに、
コーディネートに合わせて二足目の靴を持ってきていたこと、

写真を撮るときにも妥協は許さず、
納得のいくアングルを探し抜いてからシャッターを切る姿を思い出した。





2007年12月1日土曜日

フランス(9)Le-Grau-du-Roiにて


「 ここに住んでいたときに、ウミネコがすっかり嫌いになっちゃった、
夜になっても鳴き通しで、うるさくてちっとも眠れないんだもの。」

イザベルさんのアパートは、港のほんとうにすぐ脇にあった。
ベランダから見下ろすと、
レストランのテラスを挟んで、たくさんの船が停泊している。
引越しの途中の冷蔵庫からソレーヌが出してきてくれたコーラを飲みながら
しばらく港を眺めた。
このあたりは、夏には夜遅くまで賑やか、

(観光客は、それでも、ウミネコよりは早寝らしい)
私が訪れた9月下旬には、
半数ぐらいのレストランがすでに閉まっていたが
もう少し寒くなるとシーズンオフになって、町はひっそりするらしい。


町の名前にある、Roiは王。でもGrauって何だろう、と思って
小学校の先生でもあるイザベルさんに尋ねると
ここLe Grau-du-Roiは、十字軍の頃にできた町で、
Grauはラングドックの言葉で、海へ続く道のことだと教えてくれた。


駐車場で見て、少しびっくりした看板。
ドイツからの観光客が多いのか、ドイツ語しか書いていない。
ドイツ語はさっぱりわからないが絵が雄弁で、
どんな危険があるのか
一目でわかる。



浜のほうに「砂浜の彫刻家」がいると聞いて、連れて行ってもらった。
「今日もいるかしら? いつもいるとは限らないんだけど……」
いた。
40代前半くらいだろうか、長髪でしゃがれ声のその人が、彫刻家。
この日つくりあげた砂の彫刻を前に、色々説明してくれた。
砂に糊を混ぜる人もいるが、自分は絶対使わない。
砂の彫刻っていうのは、もともとつかの間の(éhémère)存在なんだから。
朝からつくって、その一日楽しんで、翌朝来てみるとくずれている。
それでいいんだ。
抽象作品もつくりたいんだけど、
それじゃあコインを投げてくれる人がいない。そういう作品は、
却ってこどもたちだけが理解して気に入ってくれたりするんだけど。
でもやっぱり、わかりやすい作品をつくれば
足を止めてくれる人が多いから、
ウミガメとか蛇使いとか、こういうのをつくるんだよ。

作品を撮った見物客たちが送ってくれた写真が
アルバムにして置いてあった。
そのなかで気になったのは、
アフリカ大陸と、それを両脇から支える女性二人の像。
「アフリカには、僕たちとは違う世界観がある。
女性が生活を支えてるんだ。
自分たちの世界観が絶対ではない、

別の世界もある、と伝えたかったんだよ。」

すっと冷たい風が通り抜け、気づけばだいぶ陽が傾いている。

「朝日と夕日のときが、ちょうど今が写真を撮るにはもってこいの瞬間。
光が強すぎても、弱すぎてもだめなんだ。」
この彫刻家の想像力のなかでは、

人魚姫の物語の結末も変わりそうに思えた。




2007年11月29日木曜日

秋色散歩

この前の日曜日、
ロシアから建築史を勉強しに来ているアーニャと
イタリアで木造建築の修復を学んで来たモトコと
小金井公園の「江戸東京たてもの園」に行った。

駅からの道すがら、お蕎麦屋さんでお昼にした。
ア:「おすすめは?」
店:「この時季ですと、きのこそばですね」
ア:「わ、きのこ大好き!」(素敵な笑顔)

以前、言語学・スラヴ語学者の黒田龍之助さんから
ロシアのひとは、きのこが大好きだと聞いたことを思い出した。
アーニャによれば、ロシアでは「リシーチカ」という黄色いきのこが人気で、
その意味は「きつねちゃん」。
なんとかわいらしい名前。


八王子千人同心組頭の家。
秋の陽を浴びた干し柿がリズミカル。

同じく組頭の家。
光のとおり道が、静かでもあり、活き活きと元気にも見える。


たてものを出ると、園内には落ち葉プールができていて、
落ち葉のシャワーにこどもたちがキャーキャー喜んでいた。




高橋是清邸の二階から。
眺めているといつまでも飽きず、つい長居してしまう。


写真には撮っていないが、
「ここに住みたい」と訪れる度に思うのが、前川國男邸。
ボランティア・ガイドの方が、
ル・コルビュジエの影響がここにもあそこにも、と
サヴォワ邸やチャンディガールの建物などと
「ここが似ている」と逐一対照した写真アルバムを見せて下さったが、
木でできている暖かみもあって、まったく別物に思える。
ともあれ、
独創的であろうと、誰かに着想を得たものであろうと、
あれだけ居心地のいい空間をつくれるとはすごいことだ。

2007年11月24日土曜日

柚子湯

今年は庭の柚子が豊作。
(偶然の一致なのか、鉢植えのゴムの木も今年はたくさんの若芽を出した)
先日、夕飯の鍋物に柚子を絞り、夜は柚子湯に入った。
湯船の蓋を開けた瞬間、爽やかで甘く豊かな香りが広がる。
香りに包まれながら上半身を深い鈍角に傾けて首までお湯につかり
しあわせの逃げてゆかないような類の、満足のため息をひとつ。
よく「ナマコを初めて食べた人はよっぽど勇気があったに違いない」
なんて言うけれど
初めて柚子を湯に入れてみた人は、なんていいことを思いついたんだろう。