2009年3月23日月曜日

チェロの声 -Herzogドキュメンタリー②-

昨日に引き続き、二本目の White Diamond (2004)
" 南米ギアナの滝を飛ぶ グレアム・ドリントン博士の奇妙な情熱"
              

私は、熊の映画よりもこちらの方がずっと好きだった。

         (*これも、以下、具体的な内容にも触れます)

「空を飛ぶこと」に憧れ少年のような瞳を持ち続ける
(ただし頭脳と技術は日々成長を続けている)博士に同行して
ヘルツォークも南米ギアナへ……

一本目で「つくり手」の存在が気になってしまったためもあってか、
二本目で、監督の思惑の支配が及ばない(と思われる)ところで物事が進むのが小気味よかった。

飛行計画は機体の不備や天候悪化によって左右されるし、

(旦先生が、見終わったときにぽそりとつぶやいたように)
博士が映画の中心のはずだったろうに、ただごとでない迫力の自然「のみ」を映すシーンが長くなっていくし、
現地スタッフの中のとても味のある男性が存在感をぐんぐん増していくし、

撮影を開始したときに抱いていたであろう構想が
つぎつぎと裏切られていく感じが(それも実はまやかしかもしれないが)、
本当に何かが生まれるときとか、実際に旅をしているときの感じに近いと感じた。

チェロの声、
これは、音楽について。

チェロは人間の声に一番近い音を出す楽器と聞いたことがあるが、
映画の中で多用されていたチェロの即興演奏は、とても心地よかった。
(「音楽が気持ちよくて、つい眠くなった」という感想もあった)

「鳥のように飛びたい」という古来からの人間の夢、というのが出発点だからか
南米ギアナの大自然が舞台だからなのか、

たとえばピアノの音は人工的に聞こえ過ぎて似合わなかっただろうし、
バイオリンでは線が細すぎただろうし、
人の声のようで、人の声ほど「意味」がついてこないチェロが、きっとぴったりだったのだろう。

一部分、チェロと人の歌声が同時に使われていたところがあったが、
自然の中に溶け込むように聞こえるチェロの音色と(そういえば楽器の体は木でできている)
人間のエネルギー、強さのようなものを感じさせる人の歌声の共演は
両方の特徴を際立たせているようだった。

ほかにも、ゆるやかな映画全体の中の、
それぞれに独立した(それがなくても映画は成り立つような)細部で、
とても心惹かれるところがたくさんあった。

これは、また改めて見てみたい。