坂田幸子著『ウルトライスモ――マドリードの前衛文学運動』(国書刊行会、2010)を読んだ。
ウルトライスモとは、著者の表現を借りれば、
「1920年前後にスペインのマドリードを中心にして展開した前衛詩運動」。
自分が1920年~1940年代にかけて活躍したメキシコの詩人について
読んだり調べたり考えたりしていることもあって
その少し前のスペインでの状況(そして、最終章ではアルゼンチンとメキシコにも視野が広がる)について、
歴史的な背景(たとえばスペインが第一次世界大戦に参戦しなかったことによる繁栄)や
個々の詩人たちに関する興味深いエピソード(ボルヘスの妹ノラと、あのギジェルモ・デ・トーレが!)や、
スペインのウルトライスモとアルゼンチンのそれはどういう関係だったのかという
解決せずにおいてしまったた疑問へのこたえや、
あれこれの情報がつなぎ合わされて、
さらに、訳詩も豊富に入っていて、
乾いた土が雨を受けるような気分で読んだ。
……なんて言えば、陳腐な表現と一蹴されてしまいそうだけれど。
英語やフランス語に比べて、スペイン語圏の詩は、日本語で読めるものが圧倒的に少ない。
邦訳されている詩人でぱっと思い浮かぶのは、
20世紀ではオクタビオ・パスやパブロ・ネルーダ、
フェデリコ・ガルシア=ロルカ、ガブリエラ・ミストラルくらいだろうか。
こうして、ウルトライスモについて、作品も解説もたっぷり読める本が出たのは、とても嬉しい。
前衛の時代、世界は思いがけないほど密につながっている。
本書で扱われている、スペイン/フランス、ロシア、ラテンアメリカのつながりは勿論のこと、
ちょうど同じころの日本の「前衛」詩人の作品を思い返しても、ウルトライスモとなんと似ていることか。
恐るべし20世紀初頭のエネルギー。
まだ頭の中が沸々としていてまとまりがないけれど、
あちこちの書店に並んで、棚からすっと抜き出されていったらいいと願う。そして各自の本棚へ。
スペイン語圏にこれまであまり関心のなかった人のもとへも届いたらいい。
ビジャウルティア(本文ではビリャウルティアと表記)も最後の最後に出てきて、
(ただし、ビジャウルティアはいわゆる「前衛」運動には懐疑的で、
マプレス=アルセのことも好きではなかったようではあるけれど)
それも嬉しい。