2012年5月18日金曜日

フエンテスと声

今月12日に亡くなったメキシコの小説家カルロス・フエンテスの
生前のインタビュー映像が、
グレゴリー・サンブラーノ先生のblogで紹介されている。

http://gregoryzambrano.wordpress.com/

http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=mm2WBEqViUI#!
始まって5分ぐらいのところで彼が発したことばに、耳が反応した。

カーソルを動かし、気になった部分を繰り返して聞くと、彼は次のようにいっている。

Una novela tiene que ser fiel a sí misma.
En la medida en que lo es, defiende los dos grandes valores de la literatura,
que son la lengua y la imaginación.

小説(小説というジャンルla novelaではなく、
ひとつひとつの作品としての小説 una novela)は
自分自身に対して誠実でなくてはならない。

自身に対して誠実であるとき、小説は、
文学のもつ二つの偉大な価値を擁護することになる。
その価値とは、ことば(lenguaje)、そして、想像力(imaginación)。


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フエンテスの声を聞きながら、
内容から離れて思ったのは、

彼自身の声(の録音)を、わたし自身が「じかに」
(=翻訳や通訳という、第三者の思考の介入なしに)聴き取り、
そこからあれこれ考えをめぐらすことができるのは、
なんと贅沢で豊かで心躍る体験か、ということ。

(上にあげた文章の、日本語訳の方には、
すでに、フエンテスでない人物[私]の思考が介入してしまっている。)

こんなことがあると、
翻訳や通訳という仕事の価値を、
翻訳や通訳の成果から恩恵を受けていることを、
日本語に変換されたことば自体の価値を、十分に意識したうえで、思う。
スペイン語を学んできてよかった。

母語以外の言語を学べば、世界は確実に広がる。確実に。

今度は、こういう面白さを味わえるようになるための、添え木を提供したい。